追想・岡本顕一郎(5)

犯罪担当

ハッカージャパンでの「インターネットツール構築論」の連載が終了し、僕はレギュラーから解放されたかと思いきや、編集長からノルマだけを台割(本の設計図面)で提示されるという、すごい状況になった。だいたい毎号16~20Pだが、どだいムリな話でそれをかわすためにあらゆる方策を考えた。

そのひとつが「連載マンガ」である。
もともと僕は女性誌で原作を書いていたこともあり、三才ブックスでの同企画の成功もあって、これを斉藤編集長に提案したら あっさりOKだった。
 PCに造詣があり白夜書房の他誌でも実績のあったモリ淳史先生を作画に迎え、原作・橋本和明先生のペアで『ハッカーダイオヘッド』がはじまる。
このおかげで、僕は すーーっと、16Pの縛りから抜けることができた。
僕はこの頃メンタルダウンしていたので、とにかく休養が必要だった。

このハッカーダイオヘッドが終了して、次のマンガをどうするか、となったときに僕のほうから
「今度は実話をもとにしたマンガでいきましょう」
と提案しこれも受け入れられた。
作画はモリ淳史先生のまま、原作を僕(山崎はるか)、編集に岡本さんというトリオがこのときに成立した。

第一回はケータイ裏サイトについて都内在住の人物が本気で計画していた犯罪を、本人の許可を受けて脚色し、原作とした。
これが好評だったので、第二回は保護観察官・佐野あゆみという人物をつくりあげ、僧侶ストーカーという、これも実際にあったエピソードを描いた。

漫画解説
「駒田部長の静かな戦い」より章末のマンガ解説

この第一回で描いた「容疑者とその家族」に興味を持った女性がいた。
東京都内で学校の先生や保護者を対象に青少年のこころの問題について講演をしていた臨床心理士である。彼女は知り合いづてに、たまたま手に取ったハッカージャパンのマンガ解説記事に興味を持ち、mixiの僕のアカウントに
「講演資料として引用したい」
を許可を求めてきた。

後の僕の妻である。

第三回では「保護観察官シリーズ」として2回目の掲載が決定し、各話完結ではあるものの長編となることが決まるわけだが、僕はこの女性を考証に巻き込んで、編集部に連れて行き 打ち合わせを行った。
なぜなら彼女はスクールカウンセラーを10年近く務めており、第三回で出てくる高校生の心情について専門家の立場から意見が出せたからだ。
この経緯を聞いた岡本さんが
「はるかさん、ほんとに誰でも巻き取ってきますね」
と半ばあきれて笑っていた。

そうしてできたのが「保護観察官佐野あゆみシリーズ」 第2話「そばにいるね」だった。

保護観察官を主人公とすることで、堂々と「犯罪者」が「保護される」というシチュエーションを描けるようになった。
架空の物語であっても、犯罪者が支援されるにあたっては、現実社会のコンセンサスが必要なのである。

これを土台に、岡本さんと僕は「犯罪者の領域」に踏み込む「犯罪担当」として、判例研究や判決文の掲載(「小女子事件」)など、犯罪者が実際に見るものについて、記事にするようになった。